「刀 無銘義弘(名物富田江)」は無銘ではあるものの、南北朝時代の郷義弘によって作られたとされる国宝であり、江戸時代には【郷中の郷】と称された名刀となっています。富田江という名は、豊臣秀吉の側近でもあった富田一白(左近将監)が保有していたことから来ています。

長さはおよそ64.8cm(2.1384 尺)、反りはおよそ1.4cm(0.0462 尺)です。目釘孔は2つ、大磨上げとなっています。南北朝時代以降争いが激化する時代において、刀身を切り短くする傾向にありました。このように短くすることを磨上げ(すり上げ)と言い、中でも銘が無くなるほどに磨き上げられるものは大磨上げと言われます。

 

なおこの刀には銘がないと述べましたが、そもそも郷義弘の在銘の作は存在していません。
ではどうして郷義弘の作であるとされているのでしょうか。その理由は彼の作風の特徴の1つ、匂口の深さにあります。

匂口とは、刀身にあらわれる模様と地鉄(じがね)の境目のことを言い、日本刀の出来を評価する際の観点として上げられることが多い重要な部位になります。北陸道のなかでも越中、越前、加賀の作品の多くは地鉄が黒ずんだものとなっています。そのため匂口が深い、つまりはっきりとしているこの刀はこの地域としては異質とされるのです。この匂い口の深さは郷義弘独特の作風と言われ、強い存在感を放っていると言えるでしょう。

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