刀剣ストーリ
「刀剣ストーリ」では日本刀にまつわる多くの物語をご紹介していきます。有名刀工や名物刀剣など日本刀には星の数ほど多くの伝説や物語があります。現代においても歌舞伎の演目のみならず、時代小説、テレビや映画などで目にすることができます。近年はゲームによっても多くの方の注目を集めております。名物と呼ばれるような有名な刀剣には、その刀剣そのものも大変に優れたものが多く貴重といえます。なかには、古くは鎌倉時代から来歴があるものもみられ、有銘であるものほど多くの古刀剣書に所載されています。刀剣には、その他に拵えがついているものや折紙・古鞘・鎺・刀箱・刀袋などといった付属品があります。「刀剣ストーリ」では刀剣本体の詳細な情報とともに、詳細な来歴や古刀剣書の記述、拵えをはじめとする刀剣を装飾する折紙・古鞘・鎺・刀箱・刀袋なども可能な限りお伝えできればと考えております。刀剣にご興味を持たれた方々の好奇心の一助になれれば幸甚です。刀剣にご興味を持たれるきっかけは人それぞれ様々ではないでしょうか。刀剣は骨董の世界でも比較的に難しい分野といわれており、古美術商の方でも書画や焼物など多方面に造形が深くても刀剣だけは不得意といった方もいらっしゃいます。確かに見た目にも装飾が華やかなものに比べればそうかもしませんが、逆を言えばそれでだけ奥が深く魅力的であり、一生かかってもそれを極めることは難しいと言えます。刀剣を学ぶのが難しいといっても、それを上回る知的好奇心があれば心配は無用です。まず、ご自分の興味を持たれたり、好きな刀剣について様々な角度から徹底的に調べてみてください。例えば、粟田口吉光の名物を一つ調べるとします。その名物を調べていると次には粟田口吉光を、粟田口派を、山城伝をといった風にどんどん調べる範囲も広がっていきます。他にも、拵えや伝来を調べるには名物帳や大名家の刀剣台帳をみる必要がでてきます。それらを全て調べあげた頃にはもう十分に刀剣の見方の基礎ができているのではないでしょうか。一度、刀剣の見方を身につけてしまえば、あとは応用で他の刀を見たり調べる方法も同じなのでそれほど難しくはありません。私どもプロの刀剣商でも、刀の銘の真贋を学ぶ方法は一人の刀工の押形を正真、贋作ともに沢山とって検証します。例えば、長曽弥虎徹興里、山浦清麿、大慶直胤といった名工で名が通っている刀工には沢山の贋作がつくられていますので、そのうち一人を選んで徹底的に調べます。そうするうちに、いつのまにか銘の見方が学べていてあとは応用となり、他の刀工についてはみたことがない初めてみるような刀工でもそれば正真か贋作か判断が出来るようになります。折角に刀剣に興味を持たれた方には是非、奥深い刀剣の魅力を楽しんでいただければと存じます。
刀剣の魅力はいくつかありますが、例えば、”妖刀”とよばれる千子村正は何故そう呼ばれるようになったのでしょうか。村正は徳川家に対して数度の不幸をもたらしました。徳川家康の祖父:松平清康は家臣の阿部弥七郎に村正の刀で切られました。家康の父:松平広忠は家臣の岩松八弥に村正の脇指で股を刺されて負傷します。家康自身も幼少の頃に村正の小刀で怪我をしています。家康の長男:松平信康を介錯した刀、家康が関ヶ原の戦いで検分した際に指を負傷した槍も村正でありました。では、実際に村正は妖刀なのでしょうか?村正はその切れ味の良さを買われ、当時の三河武士にも愛用する者もが多かったようです。三河と伊勢は距離的にも近く、街道が通っていたことも関連しています。三河武士が多く用いていた村正が、いくつかの偶然のなかで後に将軍家となる徳川家における事故に遭遇していたのではないでしょうか。しかし、村正は佩用が禁止されるような風潮のなかでも確実に大名家の刀剣台帳のなかにありました。御三家筆頭の尾張徳川家にも村正の刀が伝来していて、刀剣台帳には、「潰し物になる筈、用たちがたき部類に入置く事」、とかいてありますが、潰し物にはならず、現在まで残っています。ほかでは仙台藩の老臣:三好家の「狐切り村正」、肥前鍋島家の「題目村正」などが有名です。他に、村正がこれほど有名になったのには前述のように多くの事件が要因と考えられますが、やはり村正そのものの「刀剣」としての魅力もあったのでしょう。刀剣の魅力には2つあり、いわゆる切れ味が鋭いことの「用の美」、そしてもうひとつは「美術的な価値」があります。武士たちは、「どんなに切れ味が鋭くても彼らの美意識にそぐわない刀」、または、「どんなに見た目が美しくても切れない刀」は手にしなかったでしょう。なぜなら、彼らはその刀に文字通りに命を懸けていたからです。村正がこれほどに有名になったのには、やはり名刀としての資質である「用の美」と「美術的な価値」の2つを兼ね備えていたからではないでしょうか。
「刀剣ストーリ」でご紹介している名物刀剣や有名刀工の由来や来歴については、主に福永酔剣先生が著された「日本刀大百科事典」よりの転載・引用・抜粋となります。「名物帳」については辻本直男先生が著された「図説刀剣名物帳」よりとなります。福永酔剣・辻本直男両先生をはじめとする諸先生方にはこの場をお借りして厚くお礼申し上げます。