治金丸
治金丸(ちがねまる)
- 指定:国宝
- 黒漆脇差拵
- 刀身 無銘 (号:治金丸)
- 那覇市歴史博物館蔵
- 長さ 1尺7寸6分(53.8cm)
治金丸は、千代金丸・北谷菜切とともに尚家に伝来した3振の刀剣の一つで、拵・刀身とも日本本土製で、尚家の由来記によれば、宮古島の仲宗根豊見親が1522年に尚真王に献上したものという。拵は江戸時代の作、刀身は信国と鑑せられやや時代の遡るものである。
拵の柄は黒漆鮫皮着せ茶糸菱巻き。目貫は銅地に桐文三双を高彫り。鞘は黒漆塗り。縁金物は、赤銅地で中央に樋を作り、左右の縁に斜線文を入れる。頭は角製。鍔や千代金丸に同じ。切羽は木瓜形で、赤銅地に菊文を散らす。小柄は赤銅魚子地に瑞雲文高彫り、金色絵。総長:73.6cm。時代:17世紀。
刀身は、平造り、庵棟、先反りつく脇差である。生ぶ茎、栗尻、目釘孔一。鍛は板目肌。刃文は腰の開いた互の目、尖り刃や耳形の刃など交じり、沸つく。帽子は乱込んで、表が丸く、裏が尖って反る。彫物は表裏とも二筋樋を掻き流す。総長:53.8cm。時代:15世紀。
黒漆脇指拵
「治金丸」と称される刀身の拵。指表に栗形に返角を有する日本の打刀拵通有の形式で、丸小尻の黒漆塗り鞘である。鍔などの金具を利用しながら琉球で制作されたものという。鞘の金具は、栗形の鵐目のみで、金製。指表に装着する小柄は、赤銅製で、薄肉に掘り出した飛雲文に金色絵(金薄板を貼り付ける技法)を施し、地に魚々子を打つ。細かな鋤彫りと毛彫りであらわした雲襞は、やや粗いタッチではあるがが、細密で整列打ちした魚々子と共に、日本製とみて差し支えない。
柄は、頭が張り気味の形で、黒漆塗り鮫皮を張った上に金装宝剣拵と同じ鶯茶の糸を巻く。柄頭は銅、鍛造で、素文。黒く燻べ仕上げとする。目貫は銅、鍛造で、三連の桐紋を表し、不目を入れる。これらの金具は、日・琉いずれか決し難いが、少なくとも目貫に関しては、桐紋の形に崩れを認め、同様の桐紋が首里城北殿跡出土の甲冑八双金具などにも見られるので、琉球製の可能性が高い。
この拵にも、金装宝剣拵とほぼ同形の、赤銅、鍛造、菊花文金象嵌の鍔と大切羽(こちらはさらに唐草を象嵌する)が装着される。両者の技術が異なっていて、鐔が日本製、大切羽が琉球製といわれている。八重菊などの花弁表現に明瞭な精粗の差があり、金装宝剣拵と同形式の鐔・大切羽が付くことの意味も考えなければならない。
治金丸拵の制作時期
尚家資料中の「治金丸宝刀ノ由来」によれば、宮古島の豊見親玄真が大永2年(1522)に尚真王に入貢するに際して献上したのが治金丸で、尚真の家臣の京阿波根が日本の京都に持ち込み研磨を託したが、磨匠の策で模造刀を返され、再度京都へ取り返しにいった譚を記す。ただこれとは別に、宮古・仲宗根家文書中の「忠導氏系図家譜」で、弘治13年(中国年号、1500)に起きた八重山のオヤケアカハチの乱平定を慶賀し、宮古の玄雅夫婦が尚真王に献上したと伝えていて、年次が微妙に違っている。
ともあれ治金丸は、16世紀初めの尚真王の八重山平定と、これに関わった宮古の豪族仲宗根豊見親の尚真王への入貢という、第二尚氏にとって政治的メモリアルとして伝承されてきたことが知れる。刀身は、これより遡る応永年間(1394~1428)の筑紫信国と鑑せられていて、由来記の文意からすれば、拵の方は、1522年を遡らない16世紀、尚家伝来中に制作されたということになる。黒漆塗りで鞘尻が丸く、小柄だけの片櫃のみをもつ、という治金丸拵は、法隆寺西円堂の奉納刀群に特徴的にみられる室町時代後期の日本の刀拵形式をほぼ踏襲しており、伝承と符号する年代観を与えることができる。
なお治金丸の刀身が京都で研ぎ直された、との伝承を傍証として、拵もこの時に日本で制作されたと考える向きもある。しかし、尚真王への入貢の褒賞として仲宗根豊見親へ下賜されたと伝える金獅子と金鳳凰の簪が宮古島・仲宗根家に現存し(ただし鳳凰形ではなく鴛鴦形)、これが竿にムディと呼ばれる捩りを加えた明らかな琉球製であるにも関わらず、金鋳造後に鏨彫りで仕上げるという日本室町時代の刀装具の常套的技法によっていることから、16世紀前葉の首里王府金工工房に、日本の彫物系技術が伝統していた公算が大きいとされている。とすれば、治金丸拵の鐔・大切羽も王府内工房で製作された可能性は十二分にあると考えられている。この意味で、「歴代宝案」にも琉球から中国への朝貢品の大半を占める刀剣外装は琉球製と記載されている。
琉球王国の王家であった尚家継承の文化遺産資料の一部について非破壊・非接触の測定が可能なポータブル蛍光X線分析装置を用いて材質調査が2000年12月に行われた。
黒漆脇指拵(号 治金丸)
刀身の中央付近1箇所を測定した。検出された元素は鉄(Fe)だけであった。得られた蛍光X線強度も千代金丸の刀身の測定で得られた結果に近く、炭素を除いて考えると、鉄含有率99%以上の材料であると判断できる。
(参考文献:日本刀大百科事典より転載・引用・抜粋)