へし切長谷部(へしきりはせべ)

  • 指定:国宝
  • 太刀 (金象嵌銘) 長谷部国重 本阿(花押)(光徳) 黒田筑前守 (名物:へし切長谷部)
  • 福岡市博物館蔵
  • 長さ 2尺1寸4分(64.84cm)
  • 反り 3分余(0.91cm)

 

 

へし切長谷部は、山城の長谷部国重極めの刀で「享保名物帳」に所載する。織田信長が、茶坊主の寛内、または半阿弥という者が反抗するのを怒り、手討ちにしようとしたところ、膳棚の下に逃げ込んだため、刀を振り下ろして斬られない。それで刀を寛内の体に押しつけ、引き切りにしたという。それを豊臣秀吉がまだ羽柴筑前守と称していた時分、つまり天正2年(1574)から信長横死の同10年(1582)の間に拝領した。秀吉はさらにへし切長谷部をさらに、黒田長政に与えたとも、または信長より黒田如水が拝領したともいう。黒田家では「圧切御刀」と呼び、万治3年(1660)3月、本阿弥家に来たときに五百貫の折紙が付いている。

黒田家の蔵刀目録である「黒田御家重宝故実 刀剣之部」に記載がある。
圧切(へしきり) 御刀 長谷部、二尺一寸四分
(織田)信長公、ある時クハンナイ(一説に半阿弥)という茶堂(道)坊主を手打にし給ふ。台所へにげて膳棚の下へかがみけるを、ふりあげて切給ふ事あたはず、刀を御入候て、へしつけ給ふに、手に覚へず切落し給ふ。是より”へし切”と称せらる。信長公より如水公江被遣しよし云々。
本阿弥家の「名物帳」には、長政公御拝領と記ししよしなり。
名物帳には「松平筑前守殿 ヘシ切長谷部 象嵌銘 長さ弐尺壱寸四分 五百貫代付
信長公御所持。御茶道観内と申者御敵対仕(る)事有之により御手打に被成、御膳棚の下へ隠れけるをヘシ切に被成し故名付(く)。大切(れ)物也。羽柴筑前守様と奉申時秀吉公へ被進、黒田長政卿拝領。国重也。」

形状は、鎬造、庵棟、身幅広く、重ね薄く、反り浅く、中鋒延びる。鍛えは、板目肌よくつみ、地沸つき、冴える。刃文は、小のたれ、小互の目交じり、小足・葉しきりと入り、中程下大乱れ、飛焼しきりと交じり、砂流し、金筋かかり、匂深く、荒めの沸よくつく。帽子は、表 乱れこみ大丸ごころ、裏 焼つめとなり乱れこむ。彫物は、表裏、棒樋を掻き通す。茎は、大磨上、刃上栗尻、鑢目勝手下り、目釘孔四、中三つ埋。本阿弥光徳が長谷部国重と極め、所持者の黒田筑前守長政の名をあわせて金象嵌で施している。黒田長政が筑前守を受領するのは慶長8年3月であるから、金象嵌を施したのはそれ以降ということになる。

長谷部国重は南北朝時代に山城国で活躍した刀工で、国信とともに長谷部派の代表工である。同時代の相州の広光・秋広と同様に、皆焼の華やかな作域をみせている。国重には、文和4年と、延文3・5年の年紀作がある。長谷部派には、広光・秋広と同様に太刀の遺例は稀有で、多くは短刀・平造小脇指となる。その作域は殆どが賑やかな皆焼であるが、国重には短刀・小脇指に湾れ刃や直刃を焼いたものも存在する。彫物は国信にまま倶利伽羅や不動明王の濃密なものがみられ、国重には刀樋や素剣など簡素なものが多い。

へし切長谷部には桃山風の豪華な金霰鮫青漆打刀拵がついており、鞘は黒塗と金打出し鮫とを斜に組み合わせ、柄は朱塗鮫に茶革巻、鐔は信家となる。縁と頭は波濤文高彫で、縁には「一乗斎毛利光則(花押)」の刻銘がある。この金工は文化・文政の頃の人で、同時代の写しとなる。
本歌は、黒田孝高が天正9年、四国征伐の際、自ら安宅河内守を切ったので「安宅切」と号する祐定の刀に、後年つけた拵えとなる。本歌の拵は鎺の銘が明寿であるところから、埋忠明寿の監修になるものといわれている。製作時期は、慶長3年、宗吉から明寿に改銘した時から黒田孝高歿の同9年までの間とされる。刀身は、刀 銘 備州長船祐定 大永二二(四)年八月日 (金象嵌) あたき切脇毛落、刃長61.2cm、反り2.4cmとなる。

金霰鮫青漆打刀拵
総長:92.2cm 総反り:2.8cm 柄長:11.8cm 鞘長:70.2cm 鞘反り:1.6cm
頭縦:3.4cm 縁縦:4.1cm 鞘口縦:4.1cm弱 鐺縦:4.4cm強
鞘口~栗形:6.0cm弱 栗形~返角:10.1cm弱
鐔:縦8.7cm強 横8.15cm 耳厚0.75cm
柄:朱塗鮫、熏韋巻
鞘:青漆塗、金圧出霰熨斗、無櫃
頭:金波文薄肉彫山路形 縁:赤銅波文薄肉彫、銘一乗斎毛利光則(花押)
目貫:金赤銅桐紋容彫 鐺:銀磨地
鐔:鉄地木瓜形、表斧透ニ題目毛彫、裏蔓瓢箪毛彫、片櫃鉛埋、折返角耳、銘信家

(参考文献:日本刀大百科事典より転載・引用・抜粋)
#へし切長谷部

(法量)
長さ 2尺1寸4分(64.84cm)
反り 3分余(0.91cm)
元幅 1寸弱(3.03cm)
先幅 8分2厘(2.48cm)
元重ね 2分5厘(0.76cm)
先重ね 2分2厘(0.67cm)
鋒長さ 1寸8分(5.45cm)
茎長さ 5寸3分(16.06cm)
茎反り 僅か

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