愛知県名古屋市に住むSといいます。私の父は趣味家で、書画骨董なんでも興味をもち、その影響か私も学生時代から美術品の鑑賞が好きでした。特に刀剣や小道具が好みとなり、尾張透し鐔が郷土のものということもあり収集していました。尾張透し鐔は、同類形が京、肥後、赤坂などにもあり、いずれもよい特徴があってすきですが、京透しのようで、中凹の造込みで角耳に鉄骨が現れて、特に多少の野性味があるので魅力的です。長年にわたり収集したもののなかには、つるぎの屋さんから購入したものも他店からのものもありますが、少しづつ手放していこうと思っていますので、またその際にはご相談に乗っていただければと思っています。

愛知県の旧国名は 尾張国と三河国といいます。
尾張国は、東海道の西部で、美濃の南隣にある国名で、現在の愛知県にあたります。東海・東山の両道の交差点にあたり、古くから開けていました。草薙剣がここの熱田に祀られ、古くから刀剣とも関係の深い国でした。「延喜式」によれば、毎年横刀十六口を貢納することになっていたから、刀工も相当いたわけですが、美濃鍛冶の勃興によって衰退してしまいました。江戸期になり、徳川一門の入封を見るに及んで、ようやく氏房・政常・信高・光代ら、知名工の出現を迎えました。
つぎに鐔工としては、室町期からあった尾張透し鐔・金山鐔・信家鐔・山吉鐔・大野鐔・光善寺鐔、そしてのち芸州へ移住した法安鐔、さらに下って江戸初期の柳生鐔など、数多の作者がいました。いずれも素朴な鉄鐔であるが、その雅味に牽かれて愛国者が多いです。
尾張元禄の三名工として、鐔工の桜山吉(三代)・戸田彦右衛門・福井次左衛門の三人が数えられます。
三河国は東海道の一国で、古くは三川・参河・水河とも書き、参州・三州とも略すが、刀銘にはほとんど「三州」とも切ります。現在の愛知県の東半部、つまり碧海郡・西加茂郡以東をいいます。三河国には、薬王寺派・三河左・三河平安城・三河文殊・三河法成寺などのなどの名は、古剣書に記されています。

尾張透し鐔は、尾張で製作された古い透し鉄鐔のことで、以前は、「尾張鐔」といえば、この透し鐔を指したほど、代表的存在です。これの作風が京透し鐔に似ているのは、尾張が東海・東山両道の交差点に位置し、かつ京都とも近いという好条件に恵まれているため、京透しの手法が古くから移入されていたためでしょう。鐔の形はたいてい丸形で、厚さも京透しより厚くなります。透しは大透しとなります。残った線が京透しより太く、かつ耳際との接合点も京透しより太くなっています。これらは実用的で堅牢であり、力強さを感じさせます。耳の内側や透しの側面が「切り立て」といって、直角になっているので、鋭さを感じさせます。それを格好のよい櫃孔で和らげているのは、さすがであります。特に愛好家を引きつけて放さないのは、その鍛錬された鉄色の良さで、紫錆の色と艶とは鉄鐔の醍醐味といえます。これには在銘がないので、正確な製作年代は不明であるが、古いものは室町中期を想わせるものさえあります。そうした年代の古さも、錆色の幽玄味をそえる一要素になっています。

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